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018:すべてを失った日〜人生で一番長い日

police

2006年10月16日

「トントン」とヴィラの部屋をノックする音。その時はまだ、それが人生で最大の事件の始まりで、その日が人生で最も長い一日になるとは夢にも思っていませんでした。

ドアを開けるとホテルのスタッフと一緒に見慣れない二人の男性が立っていました。そのうちの一人が何か書類を手にしていて、スタッフは「この二人は警察の人で、この地域の見回りをしているので部屋を見せて欲しいと言っている」と言いました。

特に後ろめたいこともなかったので、私は即座にOKをし、二人を部屋に招き入れました。それまで何度もバリに滞在していましたが、こんなことは初めて。でも、何の疑問も感じず彼らのやることを見守っていました。

彼らが部屋を調べ初めてすぐ、そのうちの一人がクローゼットを開けて私のジャケットを取り出しすと、ポケットに手を入れて何かを取り出しました。

「これはなんだ?」

彼が取り出したものはビニールの小さな包み。そのジャケットは前日着ていたものでしたが、その包みは全く見覚えがありません。

「わからない」

そう答えると、彼はその中身を取り出して言いました。

これはドラッグだな。これはどこで手に入れたんだ?調べるから一緒に警察に来なさい

その包みは初めて見るもので、中のドラッグにも見覚えはありません。私はしばらく、何が起こっているのか全く理解できませんでした。

「とにかく誤解を解かなくては・・・」そう思った私は、ビジネスパートナーだったホテルのマネージャーに電話をしましたが、こんな時に限って何度かけても繋がりません。どうしたものかとしばらく考えましたが何も思いつかず、仕方なしにスタッフに「マネージャーが来たらこのことを伝えるように」と伝言をすると、言われるがままに車に乗り込んで彼らと一緒に警察に向かいました。

「誤解を解けばなんとかなる」という誤解

この時の私は事の重大さに全く気付いていませんでした。「とにかく誤解なんだから、警察に行って説明すれば分かってくれるだろう」と軽く考えていました。心配そうにしているホテルのスタッフにも「すぐに戻ってくるから」と伝えて車に乗ったのですが、結果的に私がこの部屋に戻ってくることは二度とありませんでした。

警察までは約一時間ほど。二人の警官は無言で運転をし、私も後部座席にだまって座っていました。

警察に着くと、普通のオフィスのような部屋に通されました。それからしばらくすると、朝の2人よりも少し偉そうな警察官がやってきて、取り調べが始まりました。とにかく私は、

身に覚えがないことなのでちゃんと説明すればすぐに釈放されるだろう

としか思っていませんでした。そこで、自分がドラッグと関係ないこと、ましてや今までの人生で一度もドラッグをやったことがないことなどを説明しましたが、いくら説明しても状況は変わらず、時間だけが流れてなかなか事態が進展しません。

数日後のフライトで日本に戻らなければならず、その前にやっておきたい仕事もたまっていたので早く帰りたい。「なんでこんなに時間がかかるんだろう?」と、なんとなくイライラした気持ちになり、どうしたら一刻も早く取り調べを終えて帰ることができるのだろうか?ということばかり考えていました。

出来ることを全てやってみよう!

「少しでも早く解決するために、何か出来ることはないだろうか?」

何事ものんびりしている南国なので、時間がかかっているのはきっとそのためだろう。とにかく、私が無実であることを伝えれば解放されるはずだ。そう思った私はあらゆる手段について頭をフル回転させて考えました。

思いついたのは、まずは友人のツテをたどり、バリに別荘を持っている日本人に電話で相談することです。バリに何年も住んでいる人なら、何か良いアドバイスをしてくれるだろうと思ったのです。

電話をした時の私は「部屋から自分に身に覚えのないドラッグが見つかり警察に連行されたのですが、誤解を解くにはどうしたらよいでしょうか?」という感じで、「早く帰して欲しいんだけど、面倒くさくて・・・」と、そんな軽い感じだったはずです。

最初は普通に私の話を聞いていた彼女ですが、時間が経つにつれて次第に声のトーンが変わってくるのが分かりました。そして、「あなた、何ををそんな呑気なこと言っているの!自分が置かれている状況が分かってるの?」ととても強い口調で言ってきたのです。

一瞬、なんでそんな言い方をするのか分かりませんでしたが、その言葉のお陰で、私はようやく自分の置かれた状況の深刻さを理解したのです。そして「もしかしたらヤバイことなのかも・・・」という不安な気持ちが芽生えました。

電話を切ったとき、私の心の中の状態は、彼女と話をする前とは全く逆で不安な気持ちでいっぱいでした。そしてその気持ちは時間と共に次第に大きくなっていきました。

その後になって分かったのですが、インドネシアではドラッグを持っていた場合その入手経路などは問題ではなく、「持っていた」という事実だけで罪になるということです。そして裁判になると非常に長い時間がかかり、裁判の結果「有罪」ともなれば数年から、長ければ十年以上の懲役になる可能性もあることもわかりました。

「冗談じゃない!」

事の重大さが理解できるとそれまでの軽い気持ちは吹っ飛び、焦る気持ちばかりが大きくなり、それはどんどん膨れていきました。

映画や小説のようには行かない

「何が出来ることはないだろうか?」

思いついたのは日本領事館。ビジネス上のトラブルはあくまでも自己責任ですが、ドラッグについては完全にはめられた訳なので、日本領事館に連絡を連絡すればきっと何かしてくれるに違いない。そう期待をしながら電話をして助けを求めました。

でも、返ってきた答えは全く予想外。

「それはインドネシアの法に従うことなので、領事館としては何も出来ない」

という冷たいものでした。映画や小説では外国でトラブルに遭ったときに領事館がサポートしてくれたりしますが、どうやら現実ではそう簡単にはいかないようです。

これは長くなりそうだ。私はこの時そう感じ、ゼロから作戦を練らなければならないな、と覚悟しました。

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